プライバシーは「放棄」できるのか?
朝日新聞に「ヤフー検索結果「削除不要」 「雑誌で過去公表」証拠に」という記事が掲載されていました(H27.12.16付)。
これは,「自分の名前を検索すると反社会的集団との関係が表示されるため,男性がヤフーに検索結果の削除を求めた」という裁判(仮処分手続き)において,裁判所は,「男性が約10年前に複数の雑誌のインタビューで,集団幹部だった過去を自ら公表していた」ことから,「プライバシー権で保護される法的利益を放棄した」として,男性側の訴えを認めなかった,というものです(上記朝日新聞記事より)。
しかし,プライバシーに属する事柄であっても,いったん自らの意思で公開した(公開を承諾した)場合には,どれだけ時間が経過してもプライバシーとして保護されることはない,という考え方は妥当ではないように思われます。
プライバシーを公開したとはいっても,それは公開の目的,媒体,態様,時期等といった要素をふまえての,その時点における判断(公開の承諾)なのであって,そうした要素を考慮することなく,いったん公開した以上はどのような形であれ公表が許される,というのは当初の承諾の範囲を超えていると言わざるを得ないでしょう。
裁判例においても,かつてアダルトビデオに出演していた女優が,引退後5年を経過した後,出演していたビデオの内容に関する記事,写真が雑誌に掲載されたことによってプライバシーが侵害されたとして,雑誌の出版社・編集長に損害賠償を求めた事案で,「公表の目的,態様及び時期のいずれにおいても,原告が「○○」に出演する際にした承諾とは前提となる条件が全く異なっているにもかかわらず,これらの異なる条件の下で,原告が本件記事の記載内容を公表することを承諾したと認めることはできない」として,プライバシー侵害を認めたものがあります(東京地方裁判所平成18年7月24日判決)。
特に,インターネットが普及した今日においては,情報の拡散するスピード,範囲が以前とは格段に違っています。したがって,本人が想定した以上の範囲に情報が拡散するという事態が容易に生じるようになっていると言えるでしょう。
このような状況を前提とすれば,プライバシーの公開に関し,承諾の範囲についてはより慎重に判断されるべきではないかと思います。