弁護士に対する名誉毀損が裁判で認定。
弁護士の伊藤和子氏が評論家の池田信夫氏に対し,名誉毀損等を理由として損害賠償を求めた裁判の判決が,平成28年11月24日,言い渡されました。
弁護士ドットコムニュース「伊藤和子弁護士に対する名誉毀損,池田信夫氏に賠償命令…東京地裁」によれば,「NPO法人ヒューマンライツ・ナウ事務局長の伊藤和子弁護士が,児童ポルノの国連調査をめぐり,ネット上に虚偽の情報を流され,名誉を傷つけられたなどとして,評論家の池田信夫氏に660万円の損害賠償を求めていた裁判の判決が11月24日,東京地裁であった。手嶋あさみ裁判長は,名誉毀損などを認め,池田氏に約57万円の支払いを命じた。」ということです。
この裁判について,池田氏は自身のブログ記事「伊藤和子のスラップ訴訟について」において,「このように他人を脅迫して言論を封殺するための訴訟をスラップ訴訟(Strategic Lawsuit Against Public Participation)と呼ぶ。こういう訴訟を許すと,ネット上の言論に対する萎縮効果が大きい。まして「人権派」を自称する弁護士がこのような人権侵害を行なうことは弁護士の職業倫理に反するので,彼女が訴訟を撤回しなければ,弁護士懲戒請求も検討する。」などと批判していました。
しかし,結果は上記のとおり,池田氏の情報発信が名誉毀損などにあたることが裁判で認められました。
私も,インターネット上の名誉毀事件についてご依頼を受け,情報を発信した者を相手方として損害賠償請求裁判を提起した際に,相手方から「スラップ訴訟だ」と非難されたことがあります。
「スラップ訴訟」とは,例えばウィキペディアでは「大企業や政府などの優越者が,公の場での発言や政府・自治体などの対応を求めて行動を起こした権力を持たない比較弱者や個人・市民・被害者に対して,恫喝・発言封じなどの威圧的,恫喝的あるいは報復的な目的で起こす訴訟」と説明されているように,本来,「大企業等の経済的・社会的に個人を圧倒する力を持つ存在」が,「個人」に対しておこなうものであって,「個人」が「個人」に対しておこなうものは,(当該個人が高い社会的地位にある,経済的強者である等の例外的場合でなければ)スラップ訴訟にあたらないと考えるべきでしょう。
むしろ,裁判を起こされた側が,「スラップ訴訟だ」という言葉を投げかけることによって,「裁判を受ける権利」や「正当な被害の救済」が妨げられるという(負の)効果が生じてしまうと思います(それが狙いなのでしょうが)。
なお,伊藤弁護士は,池田氏が「スラップ訴訟だ」と非難したことに対して,自身のブログ記事「【ご報告 池田信夫氏を名誉棄損で提訴しました】」で,「この訴訟はスラップ訴訟に該当しないことは明らかです。不当な名誉棄損を受けた個人が裁判手続きを通してこれを是正することは,個人の基本的人権であり,憲法でも「裁判を受ける権利」として保障されています。訴訟による法的解決自体を糾弾する姿勢にははなはだ疑問です。」と述べています。私も同感です。
ちなみに,上記弁護士ドットコムニュースによれば,「裁判所は,池田氏が投稿について「真実であることについて何らの主張立証」もしていないなどとして,名誉毀損などに当たると認めた。」そうです。
以前のトピックで触れているように,名誉毀損が違法にならないためには「公共の利害に関わる事実であること」,「公益を図る目的であること」及び「真実であること(または真実であると信じたことに相当の理由があること)」という要件を満たす必要がありますから,「真実であること」について主張もしなかったということであれば,当然,名誉毀損が成立するということになりますね。