「炎上」の実態とは?
さて,インターネットが普及した今日においては,私達のような一般人でも,マスメディアに頼ることなく広範囲に情報を発信することが可能となりました。
しかし,広範囲に情報を発信することが可能になったことの裏返しといいますか,情報発信に伴うリスクとして「炎上」という事態があげられるでしょう。
「炎上」については,いまだ確固たる定義がある訳ではありませんが,一般的にいえば,インターネット上のソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)等を利用して発信された情報に対し,多数のユーザーから批判的なコメント(悪い場合には誹謗中傷)がなされる等して収拾がつかなくなり,情報の撤回や謝罪を余儀なくされるような事態,と説明できると思います。
今年4月に出版された田中辰雄・山口真一「ネット炎上の研究」(勁草書房)では,「ある人物や企業が発信した内容や行った行為について,ソーシャルメディアに批判的なコメントが殺到する現象」というように定義されています。
最近の例では,フリーアナウンサーの方がブログに掲載した人工透析患者に関する記事が「炎上」し,謝罪どころか出演番組を降板せざるを得ないところまで追い込まれてしまったというものが記憶に新しいところです。
ところで,上記「ネット炎上の研究」では,こうした炎上を生じさせているのはごく少数のインターネットユーザーであり,炎上に参加したことのあるインターネットユーザーは全体の約1.1%に過ぎないという調査結果が示されています。
インターネットユーザーの数は膨大ですから,その1.1%といっても相当の数になるとは思いますが,割合からすればごく少数にとどまるということですね。
とはいえ,炎上という事態は,避けられるのであれば避けるに越したことはありません。インターネット上で情報発信をする際には,炎上を招きやすい話題,表現になっていないか等に留意するのがよいといえます。
なお,上記「ネット炎上の研究」の著者のひとりである山口真一氏(国際大学GLOCOM助教)が,出版記念公開コロキウム用に「ネット炎上の研究 「炎上の分類・事例と炎上参加者属性」」という資料を作成されておられますが,ネット炎上について理解する上で参考になると思います。
例えば,以下のような分析結果等が紹介されています。
「炎上は誰が起こすのか」(資料34頁)
- 【性別】有意に正。男性は,女性に比べて炎上に参加する確率が高い。
- 【年齢】有意に負。若い人ほど炎上に参加しているといえる。
- 【子供と同居】有意に正。子育て関連,軍事関連等に書き込みか。
- 【年収】個人年収,世帯年収共に有意に正。裕福な人ほど炎上に参加。
- 【ラジオ】有意に正。「頭を良く見せたい型(中川,2010)」の炎上参加者か。
- 【ソーシャルメディア利用時間】有意に正。
- 【掲示板利用】有意に正。
- 【いやな思いをしたことがある】有意に正。ネット上でいやな思いをしたことのある人の方は炎上参加者になる確率が高いという負の連鎖。
- 【ネット上では非難しあって良い】有意に正。そう考えているのは全体の10%程度のマイノリティであり,そもそも考え方の違う人が炎上加担者となっている可能性。
「炎上対処方法」(資料40頁)
- 炎上の規模を考える。「炎上の流れ③:まとめサイト等に紹介」にいかなければ,致命的な炎上ではないと考えられる。
- 炎上参加者は少ないことを知っておく。小さな炎上に過敏に反応し,発信を控えるようになったり,すぐ謝罪対応を行ったりする必要はない。本当に謝罪が必要かどうか,冷静に判断する。
- 批判が殺到する中で,擁護コメントも少なからずついていたら,「ある層のネットユーザの規範に反してしまったが,行為としては特に誤りはない」可能性が高い。