インターネット上の誹謗中傷と慰謝料
インターネット上の書込み(記事の投稿)によって,名誉毀損,プライバシー侵害などの被害を受けた場合,被害者は加害者(記事の投稿者)に対して,損害の賠償を求めることができます。
ここでの「損害」とは,記事によって受けた精神的苦痛のほか,記事の削除や投稿者の特定に要した弁護士費用などを言いますが,ご相談者からよく尋ねられる質問のひとつに,「先生,慰謝料はいくらくらいになるんですか?」というものがあります。
ご相談者にとっては,自分がインターネット上の記事によって精神的苦痛を受けたわけですから,それを慰謝するに足る金銭,すなわち慰謝料を求めるのは当然といえますが,このような質問に対して,スパっと「●万円です」とはなかなか言い難いのが正直なところなのです。
もちろん,裁判例データベースには,名誉毀損やプライバシー侵害などが問題となった事案が収録されているので,それらを参照すれば,裁判官が示すであろう慰謝料の額について,おおよその数字を示すことはできます。
ただ,ご相談者のケースにおいて具体的にどの程度の慰謝料が認められるかとなると,(ある程度の範囲内に収斂するとはいえ)裁判官によって判断には差がありますので,「だいたい●万円から●万円の間くらいになると見込まれます」という言い方になってしまいます。
何か,慰謝料算定に際して有用な基準があればなあと思っていたところ,先日,学陽書房から「名誉毀損の慰謝料算定」(西口元,小賀野晶一,眞田範行編著)という書籍が刊行されました。
上記書籍においては,慰謝料がどのように算定される(べき)かについて,これまでなされてきた多数の裁判例の分析を通じて,「被害者の属性別中央値」±「伝播性・影響力の強弱」±「加害行為の悪質性」という算定式が提唱されています。
具体的な判断要素に基づく説得的な慰謝料額の提示を可能にするものとして,今後,積極的に活用できそうです。