記事の削除,投稿者の特定にかかった費用,回収できる?
先週,今週と肌寒い日が続きますね。インフルエンザの季節でもありますし,体調を崩さないよう気をつけたいですね。
さて,インターネット上で誹謗中傷された,プライバシーを侵害された,という場合,対応としてはまず「記事を削除する」,「投稿者を特定する」ということが考えられます。
いずれの方法でも,弁護士に依頼すると相応の弁護士費用がかかりますが,さて,削除や投稿者特定のためにかかった弁護士費用は,投稿者に支払いを求めることができるでしょうか?
ご相談者からよく尋ねられるご質問ですが,結論からいえば,裁判においては,一定の範囲で不法行為(=記事の投稿)によって生じた「損害」として認められており,投稿者が負担すべきとされます。
ただし,かかった費用全額が認められるかというと,一部のみ認める場合,あるいは,開示にかかった弁護士費用は認めるが削除にかかったものは認めないという場合もあり,判断する裁判官によってマチマチというのが現状です。
交通事故のケースでは,弁護士に依頼して裁判に訴えれば「損害額の1割に相当する額」が,交通事故に起因して生じた弁護士費用と認められるのですが,インターネット上の誹謗中傷・プライバシー侵害等においては,まだそこまでの類型化がされておらず,裁判官の判断に委ねられる部分が大きいのです。
具体的にみてみましょう。
・東京地裁平成25年12月11日判決
「発信者情報開示の仮処分申立てを依頼し,認容決定を受けたこと,投稿3個分の報酬として4万0889円の支払を約したことが認められるから,そのうちの1万3629円(3分の1の金額。1円未満切捨て)につき,損害賠償請求に必要な費用として被告の不法行為と相当因果関係が認められる。」
→ 開示に要した費用4万0889円のうち,その1/3に相当する1万3629円を損害として認定。
・東京地裁平成25年12月2日判決
「本件訴え提起に至るまでに要した調査費用50万5500円についても損害として支払を求めているところ(上記1(4)参照),インターネット上の名誉毀損行為において加害者の特定のためには掲示板管理者やインターネットプロバイダに対し,その特定のための手続を行う必要があるといった本件における証拠収集状況や本件の被告Y2の不法行為の内容等本件に現れた一切の事情を考慮すると,上記費用のうち,5万円を被告の不法行為と相当因果関係のある損害と認めるのが相当」
→ 開示に要した費用50万5500円のうち,その1割に相当する5万円を損害として認定。
・東京地裁平成24年12月20日判決
「d社に対する投稿記事削除及び発信者情報開示仮処分命令申立事件の報酬として42万2222円,JCN関東に対する発信者情報消去禁止の仮処分命令申立事件の報酬として26万2500円,さらに,○○サイト上の誹謗中傷記事がコピーサイトに拡散した記事を削除するための報酬として6万3332円を支払ったことは認められる」
「本件における調査費用等相当の賠償額としては,20万円を認めるのが相当」
→ 削除・開示に要した費用74万8054円のうち,約1/4に相当する20万円を損害として認定。
・東京地裁平成24年1月31日判決
「被告Y1の特定のための調査費用六三万円も被告Y1に対する不法行為の損害として被告Y1が負担すべき」
→ 開示に要した費用63万円全額を損害として認定。
考え方としては,
(1)記事の削除は,記事によって生じた「違法状態」を除去するために不可欠なことですから,除去のために支出を余儀なくされた弁護士費用自体が損害と言えるでしょう(その意味で,交通事故のケースように,「既に生じた損害(休業補償,慰謝料等)」につき,その賠償を受けるために必要となるものとは性質が異なる)し,
(2)投稿者の特定は,記事によって受けた精神的苦痛に対する慰謝料を請求する等のために不可欠なものといえますから,それらに要した費用は,その「全額」が記事の投稿という不法行為と相当因果関係を有するものとして投稿者が負担すべき,というのが筋であろうと思います。