SNSによる情報発信が会社にもたらすリスク 2
以前,「SNSによる情報発信が会社にもたらすリスク」というエントリで,会社がSNSを使って情報発信・提供をしている場合に,従業員が顧客のプライバシーを漏らしてしまう等の不用意な情報発信がもたらすリスクについて触れました。
先日,不動産会社従業員が,自分の勤める不動産会社店舗を有名芸能人夫妻が訪れたことや,夫妻に紹介した物件の賃料をツイートしたという件が問題となり,不動産会社が謝罪するという事態になりました。
このツイートについて,どのような問題があるかについて考えてみると,まず,芸能人夫妻のプライバシーを侵害するものではないか,という点が挙げられます。
これまでのエントリでも触れたように,「プライバシー」にあたるかどうかは,
ア)私生活上の事実またはそれらしく受け取られるおそれのある事柄であること
イ)公表された者の立場にたってみた場合,一般人の感覚に照らせば公表を望まないと認められる事柄であること(一般人の感覚を基準として,公開されることで心理的な負担,不安を覚えるであろうと認められることがらであること)
ウ)いまだ一般の人に知られていない事柄であること
という要件を満たしている必要があります。
今回のケースについてみれば,「賃貸物件を探していること」や「紹介された物件の賃料がいくらであるか」などは,私生活上の事柄であり,一般人の感覚からしても公表されることを望まないものであり,また,ごく限られた範囲にしか知られていないものと言えるでしょう。
したがって,従業員がツイートした内容は,芸能人夫妻の「プライバシー」にあたり,これをツイートという不特定多数が閲覧可能な媒体で発信したことは,プライバシー侵害にあたると考えられます。
なお,今回のケースでは,ツイートした不動産会社従業員が特定され,氏名や写真等がインターネット上で拡散し,不特定多数から誹謗中傷されるという事態が生じています。
個人が何か問題を起こした際に,個人の実名等を晒して誹謗中傷したり,ひどい場合にはその家族についても攻撃の対象としたりするような,いわゆる「ネット私刑」と呼ばれる事態がみられます(「J-CASTニュース」の調査によれば,犯罪者に対するインターネット上の私刑,どう思う?」という質問に対し,41.9%が「場合によるが,犯罪行為を行ったのだから仕方がないとい思う」に投票したそうです http://www.j-cast.com/2015/10/26247273.html?p=all)。
確かに,この従業員の行為は不用意であると思いますが,だからといって,従業員に対するプライバシー侵害や誹謗中傷が正当化されると考えるのは,行き過ぎであろうと思います(なお,「プライバシー侵害」は,犯罪行為ではなく,侵害された人が侵害した人に損害賠償を求めることができるという,民事上の問題です)。