記事を投稿した人物をどうやって特定する?
インターネット上の記事によって誹謗中傷されたり,プライバシーを侵害されたりした場合,被害者としては「記事の削除」と「記事を投稿した人物の特定」(慰謝料請求等の前提として)という対応を取ることになります。
今回のトピックでは,「記事を投稿した人物の特定」について,具体的にどのように進めていくのか一般的な手順をご説明しましょう。
手順1:コンテンツプロバイダに対して,記事が投稿された際に用いられたIPアドレス,タイムスタンプ等の開示を請求する。
自分に対する名誉毀損,プライバシー侵害にあたる記事をみつけたときは,その記事が掲載されている掲示板等の管理者(=コンテンツプロバイダ)に対して,記事が投稿された際に用いられたIPアドレス(※1),タイムスタンプ(※2)等の開示を請求します。
※1 インターネットプロトコルアドレス。おおまかに言えば,インターネットに接続している端末機器(パソコン,スマホ等)を識別するためにISP(インターネットサービスプロバイダ)から割り当てられる当該機器に固有の符号を指します。
※2 ここでは,単に,記事が投稿された(として記録された)時刻を指す言葉として使っています(プロバイダ責任制限法では「IPアドレスを割り当てられた電気通信設備から開示関係役務提供者の用いる特定電気通信設備に侵害情報が送信された年月日及び時刻」と規定されています)。一般にタイムスタンプという言葉は,ある電子データが一定の時刻(時点)に存在し,かつ,当該電子データの内容が改ざんされていないことを証明する技術・仕組みを指すものとして使われています。
手順2:コンテンツプロバイダから開示されたIPアドレス(以下「対象IPアドレス」といいます)をもとに,対象IPアドレスを割り当てたISP(経由プロバイダ)を特定する。
コンテンツプロバイダからIPアドレスやタイムスタンプが開示された場合,次の手順は「ISPを特定すること」です。
とは言っても,難しい調査などは不要であり,インターネット上で提供されているIPアドレス調査サービス(例えば,「IPひろば」(http://www.iphiroba.jp/ip.php)など)を利用すれば,開示されたIPアドレスを管理し,それを契約者に割り当てたISPを特定することができます。
手順3:ISPに対して,対象IPアドレスを割り当てられていた契約者の氏名,住所等を開示するよう請求する。
手順2で特定できたISPに対して,対象IPアドレスを割り当てられていた契約者の氏名,住所等を開示するよう請求します。
以上のように,投稿した人物を特定するには,「コンテンツプロバイダへの開示請求」と「ISPへの開示請求」という二段階の手続きを経る必要があります。
また,コンテンツプロバイダ,ISPのいずれについても,開示請求に任意で(=裁判によらずに)応じてくれるところもあれば,裁判で開示が認められた場合でなければ応じないところもあります。
一般に,大手のほうが「ガード」が固く,裁判で開示が認められない限りは応じない,という姿勢を取るところが多いという印象です。
開示請求に際して気をつけなければならないのは,「記事が投稿された時期がいつか」という点です。
というのは,ISPにおいて,IPアドレス等の情報(これを「ログ」といいます)を保存している期間には限りがあるからです。
携帯系のISP(NTTドコモ,ソフトバンク,KDDI等)は,ログを保存している期間が3か月しかないので,記事を見つけたときにはもうログが消去されていて開示ができない,という事態が生じることがあります。
ISP特定の前に,コンテンツプロバイダからIPアドレス等を開示してもらう必要があるので,それに要する時間も考慮すれば,記事が見つかるのが早いに越したことはありません。また,開示請求の手続きも,可能な限り迅速に進める必要があります。
弁護士に開示請求のことを相談する際には,このあたりのことについて(も)最初にきちんと説明してくれるかどうか,注意して聞くとよいでしょう。