Amazonと発信者情報開示
先日,日本経済新聞に「アマゾンに開示命令 中傷書評の投稿者情報巡り東京地裁 」という記事が掲載されていました。
写真:写真素材ぱくたそ
記事によれば,「判決によると,投稿者は2013年に複数回,アマゾンのサイトの書評に著者らについて「人を欺くかのような活動をしている」などと投稿したが,同地裁は「真実ではない」と認定。そのうえで社会的信用を低下させたとし,運営するアマゾンジャパンに対し投稿者情報の開示を命じた。」とのことです。
この判決のポイントのひとつとして挙げられるのは,記事でも「海外に本拠を置くネットサービス企業が本国法人以外がサイトを運営していると認めるのは珍しく」と指摘されているように,アマゾンジャパン株式会社という「日本法人」が通販サイト「amazon.co.jp」(http://www.amazon.co.jp/ 以下「アマゾン」といいます)の管理者であると判断された点です。
すなわち,アマゾンに掲載されている利用規約の「当サイトの管理運営会社名および所在地」という項目では,「www.amazon.co.jp をURLとする当サイトは,Amazon.com Int’l Sales, Inc. およびAmazon Services International, Inc. が共同で管理運営を行っております。」とされており,アマゾンジャパンではなく,海外法人である「Amazon.com Int’l Sales, Inc.」と「Amazon Services International, Inc.」によってサイトが運営されている旨,明記されています。
したがって,規約における規定からすれば,サイトに関連する情報(例えば,本件で開示請求の対象とされたような,レビューを投稿した人物に関する情報)を管理する権限を有しているのは,上記2つの海外法人であって,日本法人であるアマゾンジャパンにはそうした権限がないように見えるからです(あくまで,問合せの「窓口」という位置づけ)。
管理権限を有しているのは海外法人であって日本法人ではない,という場合,サイトに関する争いについて裁判を起こすには当該海外法人を相手方とする必要があり,そうすると,「登記をどうやって取得するか」という問題や,法的には,そもそも海外の法人に対して日本において裁判を起こすことができるのか,といった点が問題となります。
一方で,サイト管理者が日本法人であるということになれば,これらの問題が解消されるので,訴える側にとっては非常にメリットがあるといえます。
まさに,本件で代理人をつとめた山岡弁護士が述べているとおり,「「ネット上で誹謗(ひぼう)中傷された被害者にとっては訴訟期間や費用が大幅に軽減される。非常に意義のある判決」と話している」とおりです。
もとより,著作物に対する批判が全て「誹謗中傷」にあたるものでは勿論なく,きちんとした根拠に基づく批判であれば,当該著作物に対する理解を深め,また,そこで述べられている事柄について議論を発展させていくきっかけになるものとして,大いに尊重されるべきであると思います。
しかし,そうした「正当な批判」ではなく,著者への人格攻撃(こんな本を書くような奴は馬鹿としか言いようがない,等)に終始しているようなもの,あるいは,虚偽の事実を前提にしたようなものは,表現の自由の名の下に保護されるべきではなく,淘汰されるべきと言えるでしょう。