誹謗中傷などを直接書き込むのではなく,誹謗中傷が記載されているウェブページへの「リンク」を設定した場合も権利侵害となる?
さて,プロバイダ責任制限法に関する問題として,今回は,「「リンク」による権利侵害が認められるかどうか」について取り上げたいと思います。
「リンクを設定する」とは,一般的には,他のウェブページ(ブログや掲示板など)のURLを(そのウェブページ等とは別の)ウェブページ上に表示させる(それをクリックするとそのウェブページに遷移,または別ウィンドウで開く)ことをいいますね。
まず,何が問題か?を整理してみます
ウェブページに,プライバシー侵害・名誉毀損など,他者の権利を侵害する書込みがされた場合,これはプロバイダ責任制限法の対象となり,削除を請求したり,発信者情報の開示を求めたりすることができます。
では,そうした書込みが掲載されているウェブページへのリンクを設定することもまた,プライバシー侵害や名誉毀損などにあたるといえるでしょうか。
リンク自体は,通常,アルファベットや数字,記号の単なる羅列に過ぎず,それ自体からは,プライバシー侵害・名誉毀損にあたる内容を読み取ることはできません。
そのため,リンク(を設定すること)によって権利が侵害されているということにはならず,したがって,プロバイダ責任制限法の対象にはならない(=削除請求や発信者開示請求はできない),という考え方も成り立ちうるところです。
過去の裁判例ではどのように判断がされたのか
この点について,平成24年4月,東京高等裁判所は,リンクを設定することによって名誉毀損が成立する,と判断しました。
裁判所の裁判例情報(http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/search1)には掲載されていないので,新聞での報道をみてみましょう。
日本経済新聞平成24年4月19日付記事「リンクによる名誉毀損認める 東京高裁,業者に開示命令 」より。
インターネット掲示板に,セクハラ行為をしたとの虚偽の書き込みが読めるリンクを張られ,名誉を傷つけられたとして,東京都内の男性がプロバイダー(接続業者)に発信者情報の開示を求めた訴訟の控訴審判決で,東京高裁は18日,名前や住所の開示を命じた。
男性の代理人弁護士は「リンクによる名誉毀損を認めており,画期的だ。リンクを張るときには注意する必要がある」と話している。
春日通良裁判長は,書き込みを見る人がリンクをクリックして別の書き込みを読むことは容易に想像できると指摘。「意図的にリンクを設定しており,自分の書き込みに内容を取り込んでいる」と名誉毀損の成立を認めた。リンク先の内容についても「セクハラをしたと認める証拠はない」と判断した。
判決によると,男性は昨年1月,掲示板「2ちゃんねる」で,実名と職業を明示した上で「セクハラ」と続く題名のスレッドに,大学時代にセクハラをしたと書かれた内容にたどり着くリンクを張られた。
一審東京地裁判決は,リンクを張っただけでは名誉毀損に当たらないと請求を棄却していた。〔共同〕
東京高等裁判所が下した判決とは
上記東京高裁の示した「意図的にリンクを設定しており,自分の書き込みに内容を取り込んでいる」という判断基準について,J-CASTニュース平成24年4月23日付記事「「2ちゃん」にリンク貼るだけで名誉毀損 ウソの内容を書き込むのと同じと判断」にはもう少し詳しい記載があり,
「「ハイパーリンクが設定表示されている本件各記事(編注: スレッドのタイトルとURL)を見る者がハイパーリンク先の記事を見る可能性があることは容易に想像できる」
「本件各記事を書き込んだ者は,意図的に本件記事3(編注:リンク先の,具体的なセクハラの内容が書かれている書き込み)に移行できるようにハイパーリンクを設定表示しているのであるから,本件記事3を本件各記事に取り込んでいると認めることができる」
という東京高裁の判断が引用されています。
報道記事を前提とすると,東京高裁は,「移行できるようにハイパーリンクを設定表示している」→「記事に取り込んでいる」という判断をしたようですが,リンクを設定すること自体は日常的になされていること(むしろ,複数のウェブページを容易に関連づけられることが,インターネットの特性といえます)であり,単に,ある情報が掲載されているウェブページを「紹介」しているにとどまるという考え方もできることからすれば,リンクの設定だけで「取り込んでいる」と言い得るか,ちょっと弱いのではないかという印象を受けます。
もっとも,権利を侵害する内容を含むウェブページを,悪意をもって拡散する意図でリンクを設定する(特に,近時はツイッターによる拡散行為が目につきます)というケースも実際にはあるわけですから,リンクを設定することが権利侵害にあたることは(一切)ないと考えるのも,被害者救済という観点からは問題があるように思われます。
例えば,権利を侵害する内容のウェブページのURLを,ツイッターを利用してきわめて大量・継続的に投稿しているというような事案であれば,権利侵害情報を効率的かつ広範囲に拡散するためにツイッターを利用していることが推認され,投稿者がインターネット上で不特定または多数に提示(公表)しようと意図しているのは,まさにリンク先の記事であると言い得ることから,リンクの設定によって「リンク先記事(の内容)を取り込んでいる」ものであり,権利を侵害していると認めてもよいのではないかと思います。