インターネット上の「なりすまし」。どうやって対処する?
今回は,インターネット上での「なりすまし」について取り上げてみたいと思います。
「なりすまし」とは?
インターネット上での「なりすまし」というのは,決まった定義があるわけではありませんが,ここでは,「自分ではない第三者が,あたかも自分本人であるかのように装って,フェイスブック,ツイッター,ブログ,掲示板といったインターネット上のサービスを使って情報を発信すること」という意味(※1)で用いることにします。
例えば,私以外の誰かがフェイスブック上で,「櫻町直樹」という名前でアカウントを開設し,職業「弁護士」と名乗った場合,櫻町直樹という名前の弁護士はいまのところ私しかいないので,「なりますし」にあたるといえます(※2)。
※1 本人のID,パスワードを不正に取得してアカウントにログインし,情報を発信したり本人に損害を与えたりすることも「なりすまし」といえますが,今回取り上げるのは,第三者が新しいアカウントを開設して情報を発信する態様のものです。
※2 ひとつ注意が必要なのは,「同じ名前」であるからといって直ちに「なりますし」にあたる,ということにはならない点です。偶々,自分と同姓同名のひとがSNS上で情報を発信しているという可能性もあります。
サービス提供者の対応状況は?
こうした「なりすまし」について,サービス提供者はどのように対応をしているか,ちょっとみてみましょう。
◆ツイッター
「なりすましはTwitterルールで禁止されています。混同または誤解を招くような形で他者を名乗るTwitterアカウントは,なりすましに関するTwitterのポリシーに従って永久凍結されることがあります。」
◆フェイスブック
Facebookで第三者が私になりすましている場合はどうすればよいですか。
「第三者があなたになりすましてFacebookアカウントを作成している場合は,コンピュータからプロフィールを報告してください。」
◆ミクシィ
「mixi では以下のような行為を禁止しております。運営事務局が発見次第,投稿を削除したりアカウントの利用を停止したりする場合があります。
・他人になりすまして mixi を利用すること
・他人の個人情報や画像等を使って,あたかもその人が mixi を利用しているかのように見せかけること」
「なりすまし」については,いずれのサービスにおいても問題行為と認識され、場合によってはアカウント凍結等の措置が講じられることになっているようですね。
「なりますし」にはどうやって対処すべき?
自分になりすました誰かが,インターネット上で勝手な情報を発信をしている場合。アカウントや記事の削除を求めたいですね。
では,どういった根拠で求めればよいでしょうか?
まず,自分の名前を騙ったアカウントについて。
人の「氏名」については,個人を他人から識別し特定する機能を有するとともに,その個人にとってみれば,個人として尊重される基礎であり,その個人の人格の象徴であって,「人格権」の一内容を構成するものとされています。
したがって,氏名を違法に(※)無断使用された場合には,人格権侵害であるとして使用の差止め(削除)や損害賠償を求めることができます。
※「違法に」かどうかは,「他人の氏名を使用した目的,氏名使用行為の態様,氏名権を有する者が被る損害,及び,差止めを認めることにより相手方等が被る不利益等を全体的に考察して判断すべきである」とされています(東京地裁H6.10.28判決(判タ863-71))。
例えば,アダルトサイトになりすましアカウントが開設されたような場合は,正当な目的は認められないでしょうし,一方で,なりすまされた者が被る不利益は大きいですから,「違法に」無断使用されたものとして削除が認められるでしょう。
次に,なりすましアカウントから情報が発信されたときはどうでしょうか。
「●●はキチガイで気持ち悪いやつだ。死んだほうがいい」などという他人を誹謗する情報が発信されたような場合,これは,なりすまされた人物が,他人を誹謗中傷しているという印象を与えるものであり,その人物の社会的評価を低下させるといえますから,名誉毀損にあたるとして削除を求めることができると思います。
では,なりすましアカウントから,「今日は●●でフレンチを食べた。高かったけど美味しかった」のような情報が発信された場合はどうでしょうか?
当然,自分はそういうことはしていない訳ですから,「誤った情報なので削除してもらいたい」と思うのが当然です。
しかし,実はそう簡単に削除が認められるとは限らないのです。
「名誉毀損」は,その人の社会的評価が低下するようなことが書かれた場合に成立しますが,上の例では,「その人が,フレンチを食べにいって,感想を述べた」という以上のことは読み取れないですから,名誉毀損にはあたらないということになりそうです。
また,「プライバシー侵害」については,「(一般人の感覚に照らして)他の人に知られたくない(公開されたくない)事柄」でなければなりません(当ブログ「日本の裁判で最初に認められたプライバシー侵害」をご参照ください)が,「フレンチを食べに行った」という事柄が,「他人に知られたくないことである」とは言い難いように思われます。
「虚偽の情報」であるからといって,直ちに名誉毀損やプライバシー侵害が成立するという訳ではなく,一定の要件を満たす必要があるので,そうした要件が満たされていないときに,「なりすましである」ということだけでもって削除を認めてもらうというのは,ハードルが高いのです
おわりに
SNSによっては,氏名,生年月日,メールアドレス,電話番号等の様々な情報を登録することになりますが,こうした情報を第三者も見ることができる状況(設定)になっていると,「なりすまし」がされる危険もそれだけ高まるということになりかねません。
インターネット上で情報を公開するときには,その内容や公開範囲などについて,十分な注意が必要といえます。