「秘密の隠れ家」が売りのお店なのに「食べログ」に掲載されてしまった!掲載をやめてもらうことはできる?
新聞等でご存じの方もいらっしゃると思いますが,お店の看板を出さず,また,店員がオートロック式の扉を開閉しないと入店できない「秘密の隠れ家」的スタイルを売りに営業していたバーが,飲食店情報サイト「食べログ」にバーの名称,住所,店内写真等を掲載されたため,「秘密の隠れ家」という営業戦略に支障が生じたとして,食べログを運営する株式会社カカクコムに対し店舗情報の削除と330万円の損害賠償を求めたという裁判がありました。
バーの主張は?
※写真は実際の店舗とは関係ありません。
判決文によれば,バー側は,「本件店舗について,立地,外観,店名,内装,入店方法等により,また,本件店舗の情報をいかなる範囲,いかなる方法で公開するかについて慎重な検討と経営判断に基づき公開することにより,秘密性を保持することで価値を創出してきた」にもかかわらず,食べログに店舗情報が掲載されたことによって,「いつでもどこでも誰でも即時かつ容易に本件店舗の情報,外観,内装等の情報をインターネット上で確認できることになり,原告の経営戦略に基づく本件店舗の価値が阻害される」と主張しました。
そして,カカクコム社は「食べログ」サイトの管理者としてバーの「営業権若しくは業務遂行権又は情報コントロール権を侵害しないよう,直ちに削除に応じる条理上の作為義務」,すなわち削除義務と,(削除に応じなかったことによる)損害賠償義務を負うと主張しました。
カカクコム社の反論は?
このようなバー側の主張に対して,カカクコム社は「一般消費者を対象として営業する飲食店は,不特定多数の顧客に対して飲食物を提供するという性質上,その飲食店の名称,所在地,電話番号,営業時間などの情報に加え,その外観及び内装の情報についても一般的に自ら公開しており,これらの情報を第三者に利用されない利益が法的に保護される利益に該当しないから,営業権侵害又は自己情報コントロール権の侵害とはならない」という一般論に加えて,訴えを提起したバーについても,「自ら運営するウェブサイト,ブログ及びFacebookにおいて,本件店舗の写真,内装の見取り図,メニュー,所在地・電話番号・営業時間を開示し,積極的に本件店舗の写真を公開するなど,店舗情報を公開しているのであるから,・・・本件店舗の店舗情報等を掲載することが業務遂行の権利侵害にならない」などとして,削除・損害賠償請求のいずれも認められるべきではないと反論しました。
裁判所はどう判断した?
この訴えを審理した大阪地方裁判所は,今年2月,バー側の請求を棄却する判決を出しました(朝日新聞平成27年2月23日付記事「食べログから削除して…「隠れ家バー」敗訴 大阪地裁」など)。
具体的には,裁判所は以下のように認定・判断して,バーの請求を認めませんでした。
・情報コントロール権について
裁判所は,「情報コントロール権といってもその権利又は利益の内容及び外延が明らかではない」し,個人について認められるプライバシーであっても,「私生活上の情報であればすべて公開されることが許されないものではなく,その情報内容に応じ,また,その侵害行為の態様により,保護の範囲は異なってくるものである」ことからすれば,「情報コントロール権というものを,不法行為や差止めを認めるために保護されるべき権利又は利益として認めることは相当ではない」というように,そもそも,「情報コントロール権」という概念自体を否定しました。
・営業権または業務遂行権について
一方,営業権または業務遂行権について,裁判所は,「営業の自由,職業活動の自由は,憲法22条1項の職業選択の自由に包摂されるものとして,保障されているものと解される。この権利の享有主体は,個人のみならず,法人においても認めることができる。したがって,原告は,自らの業務遂行のため,自己の情報に関し,公開するかどうかについて,選択する権利又は利益を有する」として,法人が,その業務遂行に際して,自己の情報を公開するかどうかを選択する権利・利益は,法的に保護されるべきものと認めました。
・削除請求に応じないことが違法と言えるかについて
しかしながら裁判所は,「本件店舗の店名,住所,電話番号,地図,店内見取り図等は,原告自身がホームページで公開しているし,その他,ブログやツイッター等により,本件店舗の情報が公開されているものは多数認められる」として,バー側自身が既にインターネット情報を公開していたことから,カカクコム社が削除に応じなかったことについては「当該店舗に批判的な評価も含め,管理者である被告の作為による情報操作をせず,ユーザーの情報をそのまま提供するサイトを設けるという方針で行っており,一般的に公開されている情報であれば掲載するという方針で原告の申し入れに応じなかったに過ぎないものであるから,被告が,原告からの申し入れに応じないことが違法と評価される程度に侵害行為の態様が悪質ということはできない」と,バー側の削除請求に応じないことが違法とまでは評価できないとして,カカクコム社が削除義務・損害賠償義務を負うものではない,と結論づけたのです。
おわりに
バーとしては,店舗情報を公開してはいたものの,公開すべき媒体や情報の範囲を限定しており,「食べログ」への掲載は予定されていたものではないから,権利(営業権等)侵害にあたると考えて本件訴訟を提起したのでしょうが,裁判所の容れるところとはなりませんでした。
ただし,本件は今年9月,高等裁判所で和解が成立したようで,朝日新聞平成27年9月2日付記事「食べログ訴訟,「隠れ家バー」情報削除で和解 大阪高裁」によれば,「店の電話番号と地図がサイトから削除され,住所は一部のみ表示される形式に変更された。」という結果になったようです。