SNSによる情報発信が会社にもたらすリスク
インターネットを用いたソーシャルネットワーキングサービス(SNS)が普及し,誰でも気軽に情報を発信することができるようになりましたが,「仲間内のヨタ話・自慢話」のような感覚で情報を発信すると,思わぬ事態を招くことがあります。
例えば,総務省「平成26年版情報通信白書」では,「近年ソーシャルメディアでの不適切投稿によって発生するトラブル、いわゆる「炎上」が注目されている。Googleにおける「Twitter炎上」「Facebook炎上」の日本での検索頻度を見てみると、2010年頃より徐々に頻度が上昇し、2013年から特に「Twitter炎上」において検索頻度が急激に高まっており、2013年に注目が高まったことが見てとれる」との指摘がされています(http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h26/html/nc143120.html)。
こうした「炎上」事例としてすぐに思い浮かぶのは,コンビニエンスストアの店員が冷凍庫に入っているところや,飲食店の店員が食材を使って不衛生な行為をしているところなどを撮影し,ツイッターなどのSNSを使ってインターネット上に投稿し,それが大きな非難を浴びたというものでしょうか。
このような行為がなされた場合,行為当事者だけでなく,行為当事者を雇用していた会社も厳しく非難されることになり,それまで築いてきた評判・信用が一瞬のうちに瓦解してしまうことにもなりかねません。
また,ケースによっては,会社の評判・信用が毀損されるだけでなく,損害賠償責任を負うこともあります。
例えば,あるレストランが,プロモーション戦略のひとつとしてSNSによる情報発信に力を入れており,「公式ブログ」や「公式ツイッター」で色々と情報を発信しているような場合を考えてみましょう。
とある日,ブログやツイッターの運営にあたっている従業員Aが,「今日,芸能人のXがすごいカワイイ子と一緒に来てたよ。デートかな?」とツイートしてしまいました。
「いつ,誰と,どこでデートしていた」という情報は,個人にとってはみだりに公開されたくないものといえますから,AのツイートはXのプライバシーを侵害するものと言えるでしょう。
そして,Aは,レストランのプロモーション戦略のひとつとしてツイッターを利用した情報発信をおこなっていたので,Aの行為は,(会社が従業員のした不法行為の責任を負うための要件である)「事業の執行につき」という要件を満たすと判断される可能性が高いと思われます。
そうすると,レストランは,AがツイートによってXのプライバシーを侵害した行為(不法行為)について,損害賠償責任(使用者責任。民法715条)を負う可能性があります。
レストランは,「顧客の情報を不用意に漏らす信用できないお店」という不名誉なレッテルに加えて,Xから損害賠償が請求された場合には,これに応じなければならないという,二重のダメージを受けることになってしまいます。
もちろん,従業員のSNS利用を全面的に禁止することはできません(また,そのような対応が適切ともいえません)が,少なくとも,会社の業務としてSNSを利用した情報発信を行う場合には,運営にあたる従業員に対し,不用意な情報発信が招くリスクを十分に説明し,会社にダメージを与えるような事態を招くことのないよう,よくよく留意すべき必要があるといえましょう。