市長による名誉毀損
樋渡啓祐氏といえば,佐賀県武雄市長として,武雄市立図書館の運営を「TSUTAYA」を展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社に委託する等「型破り」な政策で知られていますが,市長在任時代における市議会での発言や,自身のブログにおける投稿記事が名誉毀損にあたるとして損害賠償請求訴訟(以下「本件訴訟」)を提起されており,先日,樋渡氏に28万円の損害賠償及び記事の削除を命じる判決が言い渡され,これが確定したとの報道がありました(佐賀新聞H28.5.7記事「前武雄市長と市、賠償命令確定へ 名誉毀損訴訟」)。なお,武雄市も被告とされており,市には33万円の損害賠償が命じられています。
佐賀新聞によれば,本件訴訟が提起されたのは今から約1年半前の平成26年9月29日のことで,名誉毀損にあたるとされたのは,樋渡氏の「・・・6月議会の一般質問で、高齢者からの借金を返さない市議がいるとして、「政治家の地位を悪用し、許すまじきこと」と発言。その後も「借金は返しましょう」などの言動を繰り返した」,「個人ブログでも「借金踏み倒し議員の配偶者」が議会事務局を訪ね、「主人は時々ボケが出てくるから。すみません」と伝えた、と書き込んだ」という行為についてです(佐賀新聞H26.9.30記事「「名誉傷つけた」武雄市長を提訴 谷口市議と妻」。
上記佐賀新聞H28.5.7記事によれば,樋渡氏(及び武雄市)が控訴しなかった理由については「武雄市と樋渡前市長は控訴しない理由を「一部賠償命令が出されたものの、主張はおおむね認められた」と発表。」とのことですが,損害賠償が命じられたということは樋渡氏の行為が違法であると認定されたということですから,にもかかわらず「主張はおおむね認められた」と述べている趣旨が気になるところです。
なお,国会議員については,憲法51条において「両議院の議員は、議院で行つた演説、討論又は表決について、院外で責任を問はれない。」と,いわゆる「免責特権」が保障されており,仮に名誉毀損等にあたる発言をしても,民事上,刑事上の責任を問われないことになっています(もっとも,これは「議員による自由な討論を担保するため」というのが特権が認められている趣旨ですから,例えば,討論とは関係ない「野次」などについては免責特権の対象にならないとされています)。
他方,地方議員や首長については,憲法上の免責特権が直接に適用されることはありません。ただし,裁判例においては,「地方議会は住民の代表機関、決議機関であるとともに立法機関であって、右議会においては自由な言論を通じて民主主義政治が実践されるべきであるから、その議員は右機関の構成員としての職責を果たすため自らの政治的判断を含む裁量に基づき一般質問等における発言を行うことができるのであり、その反面、右発言等によって結果的に個別の国民の名誉等が侵害されることになったとしても、直ちに当該議員がその職務上の法的義務に違背したとはいえず、当然に国家賠償法一条一項による地方公共団体の賠償責任が生ずるものではない」と,名誉毀損等があっても直ちに議員の法的責任が生じるものではないと述べ,その理由として「民主主義政治実現のために議員としての裁量に基づく発言の自由が確保されるべきことは国会議員の場合と地方議会議員の場合とで本質的に異なるものとすべき根拠はなく、地方議会議員について憲法上免責特権が保証されていないことは右法理の適用に影響を及ぼすものではない」から,としたものがあります(東京高判平成12年2月28日判例集未搭載)。