ストーカー規制法とSNS
先日,東京都小金井市のライブハウスにおいて,コンサートに出演予定であった女性が刃物で刺され意識不明の重体に陥るという痛ましい事件がありました(朝日新聞H28.5.22付記事など)。
この事件においては,被疑者とされる男性がTwitterを用いて繰り返し被害女性にメッセージを送っており,被害女性は警察署へ相談に行ったようですが,ストーカー規制法で対象とされるのは「電子メール」となっているため,同法の対象外と判断されていたようです。
ストーカー行為等の規制等に関する法律
第2条 この法律において「つきまとい等」とは、特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で、当該特定の者又はその配偶者、直系若しくは同居の親族その他当該特定の者と社会生活において密接な関係を有する者に対し、次の各号のいずれかに掲げる行為をすることをいう。
一 つきまとい、待ち伏せし、進路に立ちふさがり、住居、勤務先、学校その他その通常所在する場所(以下「住居等」という。)の付近において見張りをし、又は住居等に押し掛けること。
二 その行動を監視していると思わせるような事項を告げ、又はその知り得る状態に置くこと。
三 面会、交際その他の義務のないことを行うことを要求すること。
四 著しく粗野又は乱暴な言動をすること。
五 電話をかけて何も告げず、又は拒まれたにもかかわらず、連続して、電話をかけ、ファクシミリ装置を用いて送信し、若しくは電子メールを送信すること。
六 汚物、動物の死体その他の著しく不快又は嫌悪の情を催させるような物を送付し、又はその知り得る状態に置くこと。
七 その名誉を害する事項を告げ、又はその知り得る状態に置くこと。
八 その性的羞恥心を害する事項を告げ若しくはその知り得る状態に置き、又はその性的羞恥心を害する文書、図画その他の物を送付し若しくはその知り得る状態に置くこと。
2 この法律において「ストーカー行為」とは、同一の者に対し、つきまとい等(前項第一号から第四号までに掲げる行為については、身体の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法により行われる場合に限る。)を反復してすることをいう。
このような痛ましい事件が起きてしまったことから,メッセージを送る手段が電子メールなのか,あるいはSNSサービスなのかは本質的な違いではないのだから,電子メールに限らずSNSサービスによるメッセージ送信も法の適用対象とすべき,という考え方もあり得るところです。
しかし,ストーカー規制法のような「刑罰法規」は,厳格に解釈しなければ規制対象となる行為が不明確となってしまい,その結果,私達の予測可能性を奪い,行動を萎縮させる危険があること,また,「表現の自由」にも関わってくることなので,(法律の改正をしないで)解釈によって対象に含めるべきという考え方は,その是非を慎重に検討する必要があります。
もっとも,SNSサービスによるメッセージ送信もストーカー規制法の対象とすべきであることは,平成26年8月に「ストーカー行為等の規制等の在り方に関する有識者検討会 」が作成・公表した「ストーカー行為等の規制等の在り方に関する報告書」において,「SNSが普及し、ストーカー行為に用いられる実態があるが、例えば、拒まれたにも関わらずSNS上で執拗にメッセージ等を送りつけたりするなどの行為について、規制がないために対応が困難であった事例も認められる。」との認識が示され,「SNSは広く一般に普及し、特に現在の若者等にとって生活に不可欠なツールとなっており、今後、SNSを利用したつきまとい行為は一層の増加が見込まれること、そして電子メールの連続送信が既に規制されていることとのバランスも考えれば、SNSを用いたメッセージの送信についても、速やかに法律による規制対象とするべきである。」と指摘されていたところです(赤字強調は筆者による)。
ただ,上記報告書が公表されてから既に1年半以上が経過していますが,まだ法律の改正はされていません。
もし,早々に法律が改正されていれば今回の事件は防げていたかもしれないと思うと,非常にやりきれない思いが募ります。