裁判紹介:「国会の指差しクイズ王」とは誰のこと?
さて,今回も最近の裁判例を紹介したいと思います。
朝日新聞H28.7.26付き「産経新聞編集委員に賠償命令 FBで民進議員の名誉毀損」によれば,産経新聞編集委員がフェイスブック(FB)に投稿した記事が,ある参議院議員の名誉を毀損するとして,当該記事の削除と110万円の損害賠償が命じられたとのことです。
朝日新聞記事によれば,「投稿では匿名だったが、判決は投稿の内容から「原告であると理解される」と判断」ということですが,表現の内容が社会的評価を低下させるようなものであっても,それが誰のことを言っているのかが分からなければ,名誉毀損は成立しません。
逆に言えば,実名を書いていなくても,書かれている内容から誰のことか分かる場合には,名誉毀損が成立する場合があるということです。
今回の裁判では,FBに投稿された記事は「「国会の指差しクイズ王」と呼ばれる人物が、官僚時代に1週間の無断欠勤をしていたなどとする内容」というものだったようですが,そうすると,「以前は官僚,現在は国会議員」であり,「国会の指差しクイズ王」というあだ名で呼ばれている,というところから,記事の対象とされた人物が誰であるか分かる,と裁判所は判断したということですね(あるいは,これらの他にも特定につながる情報があったのかもしれませんが。ちなみに,「国会の指差しクイズ王」というキーワードでグーグル検索をすると,今回の裁判で原告となった国会議員の名前が大量にヒットします)。
また,朝日新聞記事には「「ある議員から聞いた話」として書いた投稿」とあります。社会的評価を低下させる表現であっても,その内容が「真実」(であり,公共の利害に関する事実であり,公益目的)であると証明された場合には,違法性がなく名誉毀損は成立しません。
しかし,「聞いた話」や「噂」といった前置きをしたからといって,話や噂の「存在」が真実であることを証明すればよい,ということにはなりません。あくまで,そうした話や噂の「内容」が真実であることを証明しなければ,名誉毀損による損害賠償責任を負うことになります。