Twitterで勝手に自分の写真を投稿され,氏名・高校名等が記載されたケースで170万円の損害賠償命令
ハフィントンポストH28.8.4付き記事によれば,元朝日新聞記者の長女に関し,その写真,氏名,通学高校名等とともに「反日捏造工作員の父親に育てられた超反日サラブレッド。将来必ず日本に仇なす存在になるだろう」という投稿をTwitter上でおこなった男性に対して,170万円の損害賠償を命じる判決が言い渡されたそうです。
以前のトピック「写真をSNSで勝手に公開された!これって許されるの?」で触れたように,これまでの判例では,「人は,みだりに自己の容ぼう等を撮影されないということについて法律上保護されるべき人格的利益を有する」,「人は,自己の容ぼう等を撮影された写真をみだりに公表されない人格的利益も有すると解するのが相当」(最高裁判所平成17年11月10日判決民集59巻9号2428頁)という判断が示されていますから,今回のような「写真を勝手にTwitter上で公開した」という行為が不法行為にあたり,損害賠償責任を負うものであると判断されたことは妥当といえるでしょう。
また,判決でどのように判断されたのかは分かりませんが,「将来必ず日本に仇なす存在になるだろう」という表現も,「侮辱」(社会通念上許容できる限度を超えて名誉感情を害するもの)にあたり,損害賠償責任を負うといえそうです。
さて,今回の判決で目をひくのは,まず,裁判所が「長女側は慰謝料の請求を100万円にとどめていたが、同裁判長は「200万円が相当だ」とも述べた。」という点です(時事通信H28.8.3付き記事)。
その理由として,上記時事通信記事では「「父の仕事上の行為に対する反感から未成年の娘を人格攻撃しており、悪質で違法性が高い」と指摘」となっており,何ら落ち度のない未成年の家族を標的にしたという点が「悪質」と判断されたようです。
なお,「なんで200万円が相当なのにそのとおりに判決を出さないの?」という疑問を感じる方もいると思いますが,民事裁判においては「処分権主義」というルールがあり,当事者(原告)が求める以上の判決を裁判官が言い渡すことはできないとされているからです(その(ひとつの)根拠としては,民事訴訟法246条で「裁判所は,当事者が申し立てていない事項について,判決をすることができない。」と規定されていることが挙げられます)。
ですから,今回の判決でも,原告である長女が「100万円を払ってほしい」という請求をしているので,たとえ裁判官が「200万円が相当だ」と思っても「100万円を支払え」という判決になるのです(なお,本件では他にも請求(おそらく,書き込んだ人物の特定に要した弁護士費用等だと思われます)がされているので,額としては170万円となっています)。
もうひとつ,今回の判決では「本件投稿をスクリーンショットによって撮影した画像がインターネット上に残存しており、権利侵害の状態が継続している」として,賠償額は本来,原告の請求を上回る200万円が相当」(上記ハフィントンポスト記事)と判断されたという点もポイントです。
通常,インターネット等で違法な記事が投稿された場合,慰謝料の額は,投稿の動機・目的,表現の態様,内容,流布の範囲,投稿によって生じた社会生活上の不利益の内容・程度,投稿後における投稿者の行動等といった要素をもとに算定されることになります。
ここで,「本件投稿をスクリーンショットによって撮影した画像がインターネット上に残存」という事情は,確かに,投稿者の行為がなければ生じなかった事態ではあるものの,投稿者自身のした行為ではなく,また,そうした「拡散」が常に生じる訳ではないことからすると,それについて投稿者に責任を負わせるべきではないという考え方もあり得るところです。
しかし,今回の判決では,そのような考え方をとらず,そうした拡散についても慰謝料算定にあたっての考慮要素としました。インターネット上の誹謗中傷は,一般に,ごく短期間にきわめて広範囲に拡散する傾向がありますから,「不法行為の抑止」という観点からも,今回の判決のような考え方(拡散についても一定の責任を負う)は,妥当と思われます。