室内を撮影,公表することがプライバシー侵害にあたるとされた事例:中森明菜さんのケース
報道によれば,歌手の中森明菜さんが自宅にいるところを撮影し,週刊誌上に写真を掲載して公表した行為が,中森さんのプライバシーを侵害する不法行為であるとして,撮影したカメラマン・週刊誌発行元に対して,550万円の損害賠償が命じられたそうです(NHKニュースウェブH28.7.27付「中森明菜さんの自宅での写真掲載 小学館など賠償命令」など)。
個人が,容貌や姿態を勝手に撮影・公表されないことについては,個人の有する「人格的利益」のひとつとして法的な保護の対象になるとされています(最高裁昭和44年12月24日判決判タ242号119頁は「個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態(中略)を撮影されない自由を有するものというべき」としており,また,最高裁平成17年11月10日判決判タ1203号74頁は「人は,自己の容ぼう等を撮影された写真をみだりに公表されない人格的利益も有すると解するのが相当であり,人の容ぼう等の撮影が違法と評価される場合には,その容ぼう等が撮影された写真を公表する行為は,被撮影者の上記人格的利益を侵害するものとして,違法性を有するものというべき」としています)。
また,室内にいる人物を撮影し,写真を公表した行為がプライバシー侵害にあたるとされた裁判例としては,東京地裁平成17年10月27日判決判時1927号68頁があります。
この裁判例では,自宅マンションの室内でガウンを羽織っていた人物(大手新聞社代表取締役)を,マンション近くの遊歩道から撮影し,週刊誌に掲載して公表したという行為について,「自宅の室内においては、他人の視線から遮断され、社会的緊張から解放された無防備な状態にあるから、かかる状態の容貌・姿態は、誰しも他人に公開されることを欲しない事項であって、これを撮影され公表されないことは、個人の人格的利益として最大限尊重され、プライバシーとして法的保護を受けるというべき」とされています。
今回の判決は,そうしたこれまでの裁判例の流れに沿ったものであり,妥当な内容といえましょう(なお,今回の判決を出した裁判官(水野有子裁判官)は,上述した東京地裁平成17年10月27日判決を出した3人の裁判官のうちのひとりでした)。
一点,今回の判決で目を引くのは,上記NHK報道によれば,「週刊誌の編集長は過去の裁判の例から撮影が違法だと知っていて、法務室も掲載を止めなかった。会社ぐるみの違法な行為で、コンプライアンス上の問題が大きく」と判断した,というところです。
一般に,プライバシー侵害における慰謝料の額を決定する要素は,公表されたプライバシーの内容,媒体,公表の意図・動機,公表による被害の程度等が挙げられますが,「違法であることを認識しつつ,あえて行った」というところを認定し,さらに,「会社ぐるみ」とした判決は,珍しいのではないかと思われます。