最近の裁判例から:検索結果からの削除について。
とある男性が,インターネット上の検索サービス「Google」を提供,管理しているグーグルインクに対し,自分の氏名を含む検索語を入力して検索すると,詐欺等の容疑で逮捕され有罪判決を受けたことが明らかになる検索結果が表示され,名誉権・プライバシー権が侵害されているとして,当該検索結果(ウェブサイトのタイトル,スニペット(ウェブサイトの一部抜粋等をした要約文),URL及びリンクの表示)の削除を求めたという事案で,平成28(2016)年10月21日,札幌高等裁判所は男性の主張を認めず,抗告(※)を棄却するという決定をしました。
※原審である札幌地方裁判所が男性の申立てを認めなかったので,札幌高裁に不服申立て(抗告)がなされ,それについての判断が示されたというものです。
この決定のポイントは,グーグルインクが「検索結果の削除義務を負うのは,検索結果として表示されたスニペットやリンク先のウェブサイトの記載が専ら他人に対する誹謗中傷等を内容とするなど,他人の名誉権やプライバシー権を明らかに侵害し,社会的相当性を逸脱したものであることが,当該検索結果それ自体から明らかな場合に限られると解するのが相当」であり,「上記の要件に加え,名誉権又はプライバシー権を侵害されたと主張する者が当該ウェブサイトの管理者に対して記載の削除を求めていては回復し難い重大な損害が生じるなどの特段の事情が存在することが必要となると解するのが相当」とした点です。
つまり,札幌高裁は,検索結果の削除が認められるためには,検索結果によって名誉権等が侵害されているだけでは足りず,それが「社会的相当性を逸脱していること」,さらには,(検索結果として表示されている記事が掲載されている)ウェブサイトの管理者に削除請求をしていると回復し難い重大な損害が生じるなどの「特段の事情があること」という要件を充足する必要があるとしたのですが,このような要件を満たさなければならないというのは,削除請求者にとって非常に高いハードルであると言わざるを得ません。
札幌高裁が,上記のような高いハードルを設定した理由のひとつは,グーグルインクは「検索結果に係るウェブサイト自体の管理者ではない」ので,インターネット上に名誉権等を侵害する内容が記載され,それが検索結果として表示されたとしても,「原則として,かかる記載を削除すべき義務を負うのは,当該ウェブサイトの管理者であって,相手方ではないというべき」というように考えたためです。
ただし,だからと言って,グーグルインクが「単なる情報の媒介者にすぎないとして,検索結果の削除義務を一切負わないと解するのは相当でなく,一定の場合には,相手方にその義務を負わせることにより,検索結果の表示によって名誉権やプライバシー権を侵害されている者の保護を図るのが相当」としたのです。
しかしながら,グーグルインクのような検索サービス提供者は,単に,インターネット上に存在する情報を機械的に羅列した「インデックス」を提供しているのではなく,「クローラー」と呼ばれるプログラムでインターネット上の情報を収集し,自社サーバーに記録し,検索ワードとの関連性が高く,検索者にとってより価値のある,有意義な情報を含むと考えられるサイトの情報が検索結果の上位に表示されるよう,アルゴリズムの精緻化を図っています。
そして,検索者の検索傾向に応じた広告を表示する(いわゆる「検索連動型広告」)等のサービスを提供することによって,巨大な利益を上げています(2016年第3四半期ベースで160億8900万ドル(約1兆8341億円。1ドル=114円)の売上げ。出所:ITpro「Googleの親会社「Alphabet」のQ3決算、連結売上高が2割増」)
このように,検索結果というものが,単なるインターネット上の情報を紹介するにとどまらず,検索サービス提供者自らが情報の価値を判断・取捨選択しているものであり,しかも,それによって巨大な利益を得ているという状況を前提とすれば,グーグルインクなどの検索サービス提供者は,検索結果として表示する情報の内容について配慮すべきであり,検索結果として表示される内容が他者の名誉権等を侵害する場合には,ウェブサイト管理者と同等の責任を負うべきと考えるのが妥当ではないでしょうか。