配偶者の浮気。メールは裁判の証拠になる?
裁判では,「証拠」が重要です。
例えば,AさんがBさんにお金を貸しました。でもBさんは期限が過ぎても返してくれませんという場合,「貸したお金を返せ」という裁判を起こしたとしましょう。
ここで,Aさんが裁判官に「確かに貸したんですよ。でも全然返してくれないんです」と言っても,裁判官は当事者ではないので,Aさんが言っていることが本当かどうかは分かりません。
Aさんとしては,例えば「借用書」などを証拠として提出し,お金を貸したことを裁判官に認めてもらう必要があります。
では,裁判で証拠として出せるものに制限はないのでしょうか?
Aさん,今度は配偶者に浮気されてしまったので,浮気相手に対して損害賠償の裁判を起こしました。
ここでも「証拠」が重要になります。例えば,配偶者と浮気相手がホテルに入ったところ,出てきたところの写真なんかがあれば,少なくともそのときに浮気があったことは認められるでしょう。
では,「配偶者と浮気相手がやり取りしたメール」はどうでしょうか。もちろん,「この前は楽しかった」のような内容だと,単なる友達という評価もできるので,浮気をしたことが直接的に書かれているメールであるとしましょう。
このメールをAさんが入手して,裁判に証拠として提出した場合,裁判官は証拠として扱ってくれるでしょうか?
自分の配偶者とはいえ,第三者(浮気相手)とやり取りしているメールを無断で見たり,あるいはそれを印刷して裁判に証拠として提出することは,配偶者(や浮気相手)のプライバシーを侵害する行為のように思えますね。
ここで裁判例をみてみると,東京地方裁判所平成21年7月22日判決では,妻(原告)が,夫の浮気相手(被告)に損害賠償請求をしたという事案で,浮気の証拠として「夫と浮気相手との間でやり取りされたメール」(と,夫のパソコンに保存されていた浮気相手の写真)が提出されました(なお,この裁判では,夫も「補助参加人」として裁判に加わっています)。
このメールについて,夫は「(妻が)離婚を有利に進めるため・・・携帯電話とパソコンから私的な情報(メール及び写真)を盗み出したもので,原告の行為は,補助参加人のプライバシーを侵害する重大な違法行為であって,夫婦間であっても許されるものではな」いと主張し,また,「携帯電話から大量のメールを盗み出すことやパスワードを設定していた補助参加人のパソコンから情報を盗み出すことは,通常考え得る社会的に相当な方法では不可能であるから,補助参加人・被告間で送受信されたメール(甲2)及び補助参加人が撮影した被告の写真(甲5)は,著しく反社会的な手段を用いて収集された証拠」なので,「証拠能力は排除されなければならない」と主張しました。
つまり,「違法な方法で取得されたメールなので,証拠として扱われるべきではない」と夫は主張したのです。
他にどういう証拠があったのか詳細は分かりませんが,もし,メールが証拠として認められないとすると,「浮気は認められない」という判断がされる可能性もあります。
さて裁判所はどう判断したかというと,「原告が上記メール及び写真を取得した動機及び方法・態様は1(9)認定のとおりであって,その取得の方法・態様は,上記メール及び写真の民事訴訟における証拠能力を排除しなければならないほどに著しく反社会的なものであるとは認め難く,したがって,補助参加人の主張は採用できない。」として,夫の主張をしりぞけ,メールは証拠として認められるという判断をしました。
上にある「メール及び写真を取得した動機及び方法・態様」というのは,具体的には,(妻が夫の)「携帯電話を確認してみたところ,補助参加人と被告がメールのやり取りをしていることが分かったので,二女Bの協力を得て,補助参加人が入浴しているときや携帯電話を持たずに外出したときなどを見計らって,補助参加人の携帯電話に残っていた上記メールを数通ずつ二女のパソコンのメールアドレスに送信した。また,原告は,補助参加人のパソコンに被告を被写体とする上記写真のデータが保存されていることを知り,二女Bに頼んでこれをプリントアウトしてもらった。」というものでした。
この裁判の裁判官は,メール等を取得した方法が「本人の承諾を得ないで転送した」というものにとどまるであれば,「著しく反社会的とまではいえない」ので,証拠として認めても差し支えない,と判断したのですね。
なお,民事の裁判において提出される証拠について,どのような場合には証拠として認められないかについて述べた裁判例としては,「民事訴訟法は、いわゆる証拠能力に関しては何ら規定するところがなく、当事者が挙証の用に供する証拠は、一般的に証拠価値はともかく、その証拠能力はこれを肯定すべきものと解すべきことはいうまでもないところであるが、その証拠が、著しく反社会的な手段を用いて人の精神的肉体的自由を拘束する等の人格権侵害を伴う方法によつて採集されたものであるときは、それ自体違法の評価を受け、その証拠能力を否定されてもやむを得ないものというべきである。そして話者の同意なくしてなされた録音テープは、通常話者の一般的人格権の侵害となり得ることは明らかであるから、その証拠能力の適否の判定に当つては、その録音の手段方法が著しく反社会的と認められるか否かを基準とすべきものと解するのが相当」としたものがあります(東京高等裁判所昭和52年7月15日判決・判タ362号241頁)。