キャバクラ通い,公開されるなんて・・・。
この裁判例は,あるテレビ番組にレギュラーとして出演していた甲野(仮名)弁護士に関して,甲野弁護士がキャバクラに頻繁に通っているという内容の記事や,キャバクラ店内で甲野弁護士が女性と歓談している様子を撮影した写真が,雑誌・ウェブサイトに掲載されたため,甲野弁護士がプライバシー侵害等を理由に出版社に対して慰謝料の支払いを求めた,というものです。
裁判所の判断
画像引用:ぱくたそ
これまで紹介した裁判例にあったように,プライバシーとして保護されるためには,「一般人の感覚に照らして,公開されたくないと思う事柄」である必要があります。
裁判所は,「キャバクラに通っていること」や,「店内での言動」などは,公開されたくないと思う事柄である,というところは認めました。
しかし,裁判所は,報道というのは憲法上保障された権利である「表現の自由」のひとつなので,報道された内容がプライバシーを侵害する場合であっても,「社会の正当な関心事に係るものであり,かつ,表現の内容及び方法が目的に照らし不当なものでないとき」には,違法性がなく,プライバシー侵害は成立しないとしました。
そして,本件については,
・甲野弁護士が公務的な活動をしていたこと
・テレビ番組において法律問題につき弁護士としての見解を披露していたこと
・弁護士という職業についていることからその立場や活動は公的な色彩を帯び,社会一般に多大な影響を及ぼしていたと認められること
などを挙げ,キャバクラに通っていることについて報道することは,甲野弁護士の社会的活動に対する批判・評価の資料になり得るものであるから,社会の正当な関心事にあたり,また,報道内容・方法も目的に照らして不当ではないとして,プライバシー侵害は成立しないと判断したのです。
(注)甲野弁護士は「名誉毀損」や「肖像権侵害」についても主張しており,名誉毀損については認められたので,出版社に対して30万円(と遅延損害金)の支払いが命じられています。
甲野弁護士の場合は,テレビに出演していたことも判断に影響を及ぼした(判決文でも,テレビ出演について触れられている)のかなと思いますが,弁護士だからといって,キャバクラ通いや店内での様子を公表されてもプライバシー侵害にあたらないというのは,ちょっと酷なような気がしますね。
おわりに
プライバシー侵害が「宴のあと」事件で認められてから約半世紀,ひとくちに「プライバシー」といっても,様々な形があります。
プライバシー権にみられるように,権利・利益というものは,いま存在しているものが全てであってそこから変わらない,というものではありません。
「権利の上に眠るものは保護に値せず」という法格言がありますが,いまある権利であっても,行使しなければ失われてしまうことがあります。一方で,プライバシーのように,それまではなかった権利でも,個人が主張することによって裁判所で認められるようになるものもあります。
弁護士として,「新しい権利」が認められる場面にもし立ち会うことができたならば,こんなに嬉しいことはないですね。
プライバシーに関する裁判例の紹介はここでひとまず終わりにしまして,次回は,時事関係の話題をご紹介しようと思っています。次回もお楽しみに!