誹謗中傷・プライバシー侵害にあたる記事を削除するということ。
さて,今回からしばらく「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(平成十三年十一月三十日法律第百三十七号)」,いわゆる「プロバイダ責任制限法」についてご紹介していきたいと思います。
「特定電気通信役務提供者」とは?
プロバイダ責任制限法は,平成14(2002)年5月に施行された比較的新しい法律です。
法律の内容は,「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示を請求する権利につき定める」(1条)というものですが,これだけ見ても何のことだかよく分からないですよね。
「特定電気通信役務提供者」というのは,法律では「特定電気通信設備を用いて他人の通信を媒介し,その他特定電気通信設備を他人の通信の用に供する者をいう。」(2条3号)と規定されており,まだこれでも何のことやらですが,具体的には,電子掲示板等の管理者,サーバー管理者,経由プロバイダ(インターネットへの接続サービスを提供する者)などがこれにあたるとされています。
つまり,プロバイダ責任制限法が定めているのは,電子掲示板等の管理者など「特定電気通信役務提供者」にあたる者の「損害賠償責任を制限すること」と,(インターネット上の記事による被害にあった人が)「発信者情報の開示を請求すること」になるのですが,「あれ,プロバイダ責任制限法で記事の削除を求めるんじゃないの?」と思われるかもしれませんね。
そうなんです,実はプロバイダ責任制限法は,「記事の削除(法律では「送信を防止する措置」といいますが)」について直接規定しているのではなく,特定電気通信役務提供者が記事を削除しなかった場合・削除した場合のそれぞれについて,損害賠償責任を問われないための要件(と,発信者情報を開示するための要件)などを定めたものなのです。
簡単には決められない削除の是非。
まず,インターネット上の記事によって自分の権利が侵害されている(名誉毀損,プライバシー侵害など)から,その記事を削除してほしいという請求が特定電気通信役務提供者に対してあったとしましょう。
このような請求を受けたとき,特定電気通信役務提供者が「削除しない」という判断をしたとします。
この場合,特定電気通信役務提供者は,技術的に記事の削除が可能な場合であって,
1)記事によって他人の権利が侵害されていることを知っていたとき
または
2)他人の権利が侵害されていることを知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるとき
のいずれかの場合でなければ,記事を削除しなかったことによる損害賠償責任を負うことはありません。
次に,削除請求に基いて記事を「削除する」という判断をした場合を考えてみましょう。
この場合は,記事を投稿した者から,「勝手に記事を削除するとは何ごとか」ということで,損害賠償請求を受ける可能性があります。
そこで,プロバイダ責任制限法は,送信を防止する措置が必要な限度において行われた場合であって,
1)他人の権利が侵害されていると信じるに足る相当の理由があったとき
または
2)削除請求があったことを投稿者に連絡してから7日以内に,削除に同意しない旨の連絡がなかったとき
のいずれかの場合にあたるときは,記事を削除したことによる損害賠償責任を負うことはありません。
記事を削除するにあたり。
さて,法律上は以上のようになっているのですが,私は,記事によって被害を受けている方からの「削除請求したい」というご依頼に基づき,特定電気通信役務提供者に対して「記事を削除してほしい」という請求(法律の文言に従えば「送信防止措置依頼」)をすることが多くあります。
最初から裁判手続きによって請求することもできますが,まずは,「侵害情報の通知書兼送信防止措置依頼書」という書式に必要事項を記載して送付し,特定電気通信役務提供者に任意での対応を求めることが一般的です。
しかし,(記事の投稿者に対する損害賠償責任が)免責される要件である,「他人の権利が侵害されていると信じるに足る相当の理由があったとき」には該当しない,ということで削除を拒否されるケースもないではありません(なお,もうひとつの要件である「削除請求があったことを投稿者に連絡してから7日以内に,削除に同意しない旨の連絡がなかったとき」については,投稿者に連絡することは義務ではないので,投稿者に連絡して確認という対応をしてくれる場合はあまり多くないというのが私の印象です)。
確かに,特定電気通信役務提供者にとっては,権利が侵害されているかどうかを判断することが難しい場合もあり,下手に削除して投稿者からクレームがつくのは避けたいというところがあるのかもしれません。
その場合,弁護士としては,権利侵害性があることを丁寧に説明して,削除に応じてもらうよう努めることになります(もっとも,記事が存在し続ける限り権利侵害が続きますから,あまり時間をかけてもというところがあり,早々に裁判手続きに移行させるというほうがよい場合もあります)。
さて,いかがだったでしょうか。単純に削除といっても一筋縄ではいかないという事がお分り頂けたと思います。
次回も今回同様,「プロバイダ責任制限法」についてご紹介していきたいと思います。