三鷹市女子高生殺害事件・差戻し裁判
平成25年,東京都三鷹市で女子高校生が殺害されるという痛ましい事件がありましたが,この事件で被告人として起訴された男性に対する裁判が今月4日に行われました(朝日新聞H28.3.4付き記事など)。
と言っても,4日に行われた裁判は「差戻審」です。
すなわち,この事件についてはまず,平成26年8月1日,殺人罪その他につき東京地裁(立川支部)において懲役22年の判決が言い渡されています。
しかし,控訴審である東京高裁は,平成27年2月6日,一審東京地裁(立川支部)が,起訴されていない行為(被害者に関する性的画像をインターネット上で公開したこと)につき「量刑事情」としての考慮を超え,(事実上)これを余罪として処罰したと評価せざるを得ず,その審理手続には違法があるとしてこれを破棄しました(裁判所のウェブサイトや裁判例データベースには判決文が収録されていないため,破棄理由は報道された記事(産経ニュースH27.2.6付き記事など)を参照しました)。
そこで,一審として改めて東京地裁(立川支部)において裁判(差戻審)が実施された,という経緯になっています。
なお,性的画像を公開した行為については,児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反(公然陳列等の禁止)などとして起訴されているようです(上記朝日新聞記事)。
児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律
第7条6号 児童ポルノを不特定若しくは多数の者に提供し,又は公然と陳列した者は,五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し,又はこれを併科する。電気通信回線を通じて第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録を不特定又は多数の者に提供した者も,同様とする。
※私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律(いわゆる「リベンジポルノ法」)においても,性的画像を不特定多数に向けて開することを処罰する規定(同法第3条)がありますが,この法律は本事件の後に制定されたものなので,本事件には適用されていません。
今回,性的画像を公開した行為が起訴(追起訴)されたことについて,弁護側は「公訴権の濫用」であり追起訴は無効との主張をしているようです。
公訴権の濫用というのは,一般に,(1)客観的にみて嫌疑がないのにも関わらず起訴すること,(2)検察官に与えられている公訴提起の裁量を逸脱して起訴すること,(3)違法捜査によって収集された証拠に基づいて起訴すること,と考えられています。
上記(1)から(3)のうち,本事件に当てはまるのは(2)の「裁量逸脱」であると考えられます。
つまり,最初の殺人罪等に関する起訴のときに,性的画像の公開についても起訴が可能であったのに,それをしなかったのであるから,一審判決が破棄された今の段階になってこれを起訴するのは検察官に許された裁量を逸脱している,というものです。
最初の起訴の際に含めなかったのは,被害者のご遺族の意向等をふまえたものだったようですから,今回の起訴が裁量を逸脱したとまでは言い難いように思われ,裁判所の判断が注目されるところです。