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メラニア・トランプ氏(ドナルド・トランプ氏の妻),名誉毀損を理由に155億円の損害賠償請求訴訟を提起

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以前,著名なプロレスラーであるハルク・ホーガン氏が,知人女性と性行為をしている様子を無断で撮影され,インターネット上のメディアサイトで公開されたとして,サイト運営会社やその創設者等に損害賠償を求めた裁判で,1億1500万ドルの支払いが命じられたというケースをご紹介しました(ビデオ公開に1億1500万ドル(約128億円)の損害賠償!)。


 

今度は,過激な発言でその動向が注目されているアメリカ大統領選の共和党候補,ドナルド・トランプ氏本人・・・ではなく,その妻メラニア・トランプ氏が,結婚前に性的サービスに従事していたかのような虚偽の報道がされたとして,英国の新聞社等に対し1億5000万ドルの損害賠償を求める訴訟を提起した,という記事がありました(毎日新聞H28.9.2付「トランプ夫人が英紙を提訴 155億円賠償求め」)。

 

またしてもとんでもない額が請求されていますが,アメリカにおいては,(特に「公人」の場合)日本とは違った形で名誉毀損の成否が判断されています。

どう違っているか簡単に言いますと,日本の場合は「表現が真実であること」等を表現者が証明しなければならないのに対して,アメリカの場合は,「表現が虚偽であること」等を被害者(表現の対象とされた者)が証明しなければならないのです。

以下,詳しくみてみましょう。

 

まず日本の場合は,不特定多数が認識し得る状態で「社会的評価を低下させるに足る表現」がなされれば,それで名誉毀損が成立します。

ただし,表現を行った者のほうで,表現内容が「公共の利害に関する事実であること」,「専ら公益を図る目的であったこと」,「真実であること(または真実であると信じたことについて相当の理由があること)」という要件を満たす(証明した)ときは,違法性(または責任)が阻却され,損害賠償責任は生じません(→トピック「社会的評価を低下させる表現が名誉毀損になる場合,ならない場合」)。

 

なお,表現の対象が「公務員」や「公選による公務員の候補者」である場合には,上記要件のうち「真実であること(または真実であると信じたことについて相当の理由があること)」を証明すれば,損害賠償責任を免れるとされています。

これは,公務員等に関する報道・表現は,民主政治の健全な運営にとって重要な価値を有することから,名誉毀損が成立する場合を狭くすることによって,報道・表現が萎縮したり,その結果,「知る権利」が妨げられたり,といったことを防ぐためです。

 

【参考】

刑法230条の2

1 前条第1項の行為が公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には,事実の真否を判断し,真実であることの証明があったときは,これを罰しない。

2 前項の規定の適用については,公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は,公共の利害に関する事実とみなす。

3 前条第1項の行為が公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には,事実の真否を判断し,真実であることの証明があったときは,これを罰しない。

 

以上のとおり,日本においては,表現内容が真実であること(または真実であると信じたことに相当の理由があること)を,表現者が主張立証しなければなりません。

 

一方,アメリカの場合は,「「ニューヨーク・タイムズ社対サリバン事件」で連邦最高裁判所は,公人の場合,報道された情報が虚偽であるという理由だけでは名誉毀損訴訟は成立しない,との判決を下し,米国の名誉毀損法を根本から変えることとなった。最高裁判所はさらに,報道記者や編集者が「現実の悪意」をもって行動し,「それが虚偽かどうか,まったく意に介さずに」情報を報道したということも,原告側が証明しなければならない,と裁定した。」(アメリカンセンターJAPANウェブサイト「米国政府の概要 – 連邦最高裁判所による画期的判決 ニューヨーク・タイムズ社対サリバン事件(1964年)」)と説明されています。

つまり,アメリカにおいては,表現された内容が虚偽(反真実)であること,それが「現実の悪意」をもってなされたことを,被害者が主張立証しなければならないのです。

 

そして,少し専門的になりますが,ある事柄について裁判の当事者(原告・被告)双方が主張立証を尽くしても,「その事柄の存否(真偽)が不明」という状態になったときには,その事柄を証明しなければならない方の不利に判断される,すなわち,「その事柄は存在しない」という結論になります。

したがって,日本では表現者が「表現内容が真実であること」(やその他の要件)を証明しなければならず,「真実かどうか分からない」という状態になった場合には,「真実ではない」ということになり,表現者が損害賠償責任を負うことになります。

 

一方,アメリカでは,被害者が「表現内容が虚偽(反真実である)こと」,「「現実の悪意」をもってなされたこと」を証明する必要があり,「表現内容が虚偽(反真実)であるかどうか分からない」,「「現実の悪意」をもってなされたかどうか分からない」という状態になった場合は,被害者の損害賠償請求は認められない,ということになります。

どちらの判断枠組みが被害者にとって有利(逆に言えば,表現者にとって不利)かといえば,日本のほうであることは明らかですね。

 

なぜなら,「真実」であることの立証には,ときとして困難が伴うことがあるからです(例えば,報道の場合は「取材源の秘匿」が要請されますが,その要請を守ることは,一方で,真実性の立証を十分にすることができないという事態を招くことになるでしょう)。

ただし,とりわけ報道機関による報道について,簡単に名誉毀損を成立させてしまうと,国民が知るべき情報が報道されなくなるといった弊害が生じる懸念があります。

 

日本でも,そうした弊害を除くために,上述のような公務員等に関する表現について一定の配慮(真実性(真実相当性)のみ立証すればよい)がされている訳ですが,さらに一歩進めて,証明責任を転換する(「虚偽であること」を被害者が証明しなければならないとする)ことも,検討の余地があるのではないかと思います。

なお,「発信者情報開示請求」においては,「違法性阻却事由の存在を伺わせる事情がないこと」について,開示請求者が証明しなければならないとされており,例えば,(言い回しがややこしいですが)「表現内容が真実であることを伺わせる事情がないこと」を証明できなければ,開示が認められないという結果になります。

 


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