「イイネ」をすると名誉毀損にあたる!?
さて,ミクシィ,フェイスブック,ツイッター,LINEなどなど,多数のソーシャルネットワーキングサービス(SNS)がサービスを競っていますが(私が最初に登録したのはミクシィでした),これらのSNSには他人の投稿に対して「好き」「楽しい」といった意思を示すための「ソーシャルボタン」(ミクシィであれば「イイネ」,フェイスブックであれば「いいね!」「すごいね」など)機能がついています。
今回は,その「ソーシャルボタン」で意思を示したことが不法行為にあたるかが争われた事案(東京地方裁判所平成26年3月20日ウエストロー・ジャパン2014WLJPCA03208009)について取り上げたいと思います。
ウエストロー・ジャパンの裁判例データベースで公開されているものでは,当事者の主張詳細などがよく分からないのですが,データベースに収録されている判決文によれば,訴えた方は「ソーシャルネットワーキングサービスである△△において,第三者がした被告Y3の名誉を毀損し,同被告を侮辱し,脅迫する内容の発言に賛同を示したりしたと主張」したそうです。
上記主張の「賛同を示したりした」というのが,ソーシャルボタン機能を使っての意思表示で,これが不法行為にあたる,と主張されていたようです。
さて,表現行為が名誉毀損や侮辱等にあたるというためには,(不特定多数に向けて)「事実を摘示」したり,「意見ないし論評を表明」したり(名誉毀損),あるいは,名誉感情を害するような表現を対象者に申し向ける(侮辱)必要があります。
そうすると,ある投稿記事について「いいね」等のソーシャルボタンをクリックするという行為は,記事の投稿者と同様の表現行為をしようとした,とまでは言えず,名誉毀損等にはあたらないように思えます。
裁判所は,「△△上のイイネ機能は,△△上のつぶやきなどの発言に対して,賛同の意を示すものにとどまり,上記発言と同視することはできないから,仮に上記つぶやきなどが名誉を毀損するなどの内容であったとしても,このつぶやきに対して「イイネ!」のタグをクリックしたということをもって,いまだそのつぶやきなどの内容について不法行為責任を負うことはないというべきである。また,原告に同発言の削除を求めるべき法的義務も認められない」と判断して,損害賠償請求等を認めませんでした。
「賛同の意を示すにとどま」るから,名誉毀損等の内容を投稿する行為と同視することはできない,ということですね。
ただ,例えば,明らかに不当な内容と一見して分かるような投稿が繰り返され,これについて毎回「いいね」をして拡散するような行為は,場合によっては,権利侵害を助長した(幇助)ということで,「共同不法行為」が成立する余地があるのではないかと思います。
友人や知人の投稿に「いいね」という意思を表示することは,一般的にはコミュニケーションの一環であり,何の問題もないと思いますが,他人を誹謗中傷している,あるいはプライバシーを侵害するような記事については,「いいね」をする前に「これに賛同して広める価値があるか」を,ちょっと考えてみるのがよいのではないかと思います。