SNSの写真が理由で子が親を訴える。
先日,AOLニュースに「幼少期の恥ずかしい写真をSNSにアップされたとして娘が親を提訴!」という記事が掲載されていました(なお,記事中に引用されているオリジナルの英文記事はこちら)。
記事によれば,(提訴した)「18歳の女性は,両親が500枚以上ものスナップ写真を彼女の同意なしにソーシャルメディアで友人たちにシェアしたことで,彼女の人生は生き地獄になったと怒り心頭だ。娘の再三の懇願にもかかわらず,彼女の両親は写真を削除することを拒否しているという。「彼らは恥知らずで見境がなく,私がトイレに座っている写真であろうと,ベッドに裸で横になっている写真であろうとお構いなしなのです」」ということだそうです。
フェイスブックやツイッター等のSNSに自分の子どもの写真をアップすることについては,賛否両論があると思いますが,写真を掲載された子が親を訴えるという段階にまで至るのは,非常に稀なケースだと思います(なお,AOLニュース記事はオーストリアでの出来事ですが,「こういった類の裁判は,オーストリアでは初となり,同意なく子供の写真をソーシャルメディアに投稿しているこの国の親たちにとっての判例となるだろう。」と記事は述べています)。
写真がインターネット上に同意なく掲載されている場合に問題となるのは,そう,「プライバシー侵害」や「肖像権侵害」ですね。
プライバシーや肖像権は,憲法13条が保障する幸福追求権に由来するとされ,これらが違法に侵害された場合には,差止め(削除)や損害賠償を求めることができます。
これまでのトピックでも取り上げてきましたが,プライバシー,肖像権は裁判において以下のように理解されています。
【プライバシー】
・私生活上の事実または私生活上の事実らしく受け取られるおそれのあることがらであること・一般人の感受性を基準にして当該私人の立場に立った場合公開を欲しないであろうと認められることがらであること,換言すれば一般人の感覚を基準として公開されることによって心理的な負担,不安を覚えるであろうと認められることがらであること
・一般の人々に未だ知られていないことがらであること
(東京地裁昭和39年9月28日判決)
【肖像権】
・人は,みだりに自己の容ぼう等を撮影されないということについて法律上保護されるべき人格的利益を有する。・人は,自己の容ぼう等を撮影された写真をみだりに公表されない人格的利益も有する。
(最高裁判所平成17年11月10日判決)
・人が私生活上の一場面での撮影及び公表を承諾したからといって,これに係る肖像権を放棄し,いかなる公表のされ方をしようともすべて承諾したことにならないことはいうまでもない。そして,人が自らの写真を雑誌等に掲載することを承諾するか否かを判断する上で,その目的,態様,時期等を含む公表の具体的諸条件は,重要な要素であり,これと著しく異なる用い方をされた場合には,承諾の範囲を超え,改めて被撮影者の承諾を得ることを要する場合もあると考えられる。
(東京地方裁判所平成15年4月24日判決)。
なお,写真が「容貌(のみ)が写っているもの」である場合には,肖像権侵害のほうが主張しやすいように思います(プライバシーは,「他人に知られたくない私生活上の事柄」について認められるものですから,例えば「ラブホテルに入ろうとしているところの写真」等ならば別ですが,「容貌」というのは常に第三者から認識可能なものであり,保護の度合いが弱いとされる可能性があるため)。
今回,AOLニュースで取り上げられた,子どもの頃の写真が本人の同意なく大量に投稿されているというようなケースにつき,もし日本で同様の裁判が起きた場合には,おそらく子の請求が認められることになるでしょう。
もっとも,お子さんがそのような訴えを起こす前に,写真を削除してあげれば済む話ではありますが…。