ネット上の検索結果から特定の情報を削除することの可否。
先日,自分の名前と居住地で検索すると,過去の逮捕歴が検索結果に表示されるとして,検索エンジンの管理者であるグーグル(米国法人)に検索結果の削除を求めた事案で,東京地方裁判所は削除請求は認められないという判決を言い渡しました(産経ニュースH28.10.29付き「グーグル検索で逮捕歴…男性の削除請求を棄却「正当な関心事」 東京地裁」など)。
この判決は,グーグルが検索結果について削除義務を負う場合があることを前提とした上で,本件の事実関係においては削除が認められないとしたものであり,一般的に「検索エンジン管理者は削除義務を負わない」と判断しているものではない点,注意が必要です。
さて,報道によれば,「男性は現金引き出し役のリーダー格で,10年以上前に逮捕され,執行猶予付きの有罪判決を受けた。判決は「社会的に強い関心を集めた事件で,猶予期間の満了から5年程度しか経過しておらず,公共の関心が薄れたとはいえない。取引先が信用調査の一環として知ることは正当な関心事だ」と判断。「検索結果を見た知人が交流を敬遠することも予想される」と男性の不利益も認めた上で,受け入れるべきだとした。」ということです。
前科等について公表することが許されるかどうかについては,最高裁判所平成6年2月8日判決が,「前科等にかかわる事実については,これを公表されない利益が法的保護に値する場合があると同時に,その公表が許されるべき場合もあるのであって,ある者の前科等にかかわる事実を実名を使用して著作物で公表したことが不法行為を構成するか否かは,その者のその後の生活状況のみならず,事件それ自体の歴史的又は社会的な意義,その当事者の重要性,その者の社会的活動及びその影響力について,その著作物の目的,性格等に照らした実名使用の意義及び必要性をも併せて判断すべきもので,その結果,前科等にかかわる事実を公表されない法的利益が優越するとされる場合には,その公表によって被った精神的苦痛の賠償を求めることができるものといわなければならない。」と判示しています。
今回のケースでは,削除請求を求めた人物が,振込詐欺における現金引出役として主導的役割をはたしていたこと,また,現在,会社を経営していること等から,執行猶予満了から5年が経過した現時点においてもなお,当該人物の逮捕歴は一般公衆の正当な関心事にあたる,と判断しました。
非常に判断が難しい事案だとは思いますが,執行猶予がついたということは,当該人物につき「社会内で更生させることが(実刑を言い渡して刑務所に収監するよりも)妥当である」と判断されたといえますし,また,執行猶予が満了してから5年以上,犯罪に手を染めることなく生活してきた訳ですから,犯罪を反省し更生しているという評価が可能だと思いますので,逮捕歴を検索結果に表示することは違法であると判断する余地もあったのではないかと思います。
(教育)心理学においては,教師から期待されずにいる(あるいは,「できない」と思われている)生徒は,実際,学習成績が下がってしまうという「ゴーレム効果」という概念があります。
これからいえば,周囲から「こいつは犯罪者だ」という目でずっと見られることによって,(そうでなければ起こさなかったはずの)犯罪をしてしまうという危険はないでしょうか。
「過つは人の常,許すは神の業」(To err is human, to forgive divine.)という箴言もあります。他者を,その過去をもって必要以上に責めるようなことをしていないか,考えることが重要だと思います。